「夕刻のコペルニクス」 149「絶対平和主義者」を捨て、逆襲を開始する!
鈴木邦男 |
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もちろん、暴力に訴えたほうが悪い。これははっきりしている。「だが……」という思いが残る。7月8日、ロフトプラスワンで新左翼「戦旗派」代表の荒岱介さんと対決した時のことだ。左右を超えて僕と建設的な話をしようとわざわざ来てくれた荒さんだった。が、観客席にいた「青狼会」佐藤悟志君らの罠にはまり「人民裁判」にかけられた。ロフトは怒号と罵声の糾弾集会になった。僕も手の施しようがなかった。騙されたと怒り、荒さんたちは帰った。
そして1週間後、戦旗派の復讐が行われた。ロフトにいた佐藤君が乱入してきた戦旗派の数人にボコボコに殴られた。「暴力に訴えるなんて最低だ。許せない」との声が圧倒的だった。が、中には「ざまーみろ。あのくらいやられて当然だ」「根も葉もない中傷ビラを配り、罵倒するからだ」「正義の反撃だ」という声もあった。 戦旗派が復讐を行った
襲撃後、戦旗派はすぐに逃げた。ロフトの客5人が追いかけた。たまたま現場にいた一水会の安田も義憤にかられて追った。そして彼だけが追いついた(他の4人は腹が出ていてロクに走れなかった)。相手が1人とみて戦旗派は安田を返り討ちにした。右の頬を殴られた安田は思わず左の頬を向けた。「暴力はいけない。右の頬を打たれたら左の頬を出せ」とミッションスクール出身の僕は常に言っていたからだ。「ゲッ、一水会の人間を殴っちゃったよ」と誤爆に気づいた戦旗派はうろたえた。「戦旗派vs一水会」の全面戦争になってはまずいと思ったのだろう。安田に平謝りに謝り、近くの自動販売機から缶コーヒーを買ってきた。
「心優しい襲撃者じゃないか」と僕が言ったら、「それでも僕は許しません一方的に戦旗派が悪い」と安田は言う。
実はロフトでの乱闘・流血事件はこの直前にもあった。他の右翼と左翼系漫画家の激論が昂じて、殴り合いになったのだ。「相手が先に手を出したのだ。こっちは正当防衛だ」と右翼青年は言う。一方の漫画家は、「はずみで相手の胸ぐらをつかんだら5人がかりで袋叩きにされた。鼻の骨を折られ肋骨も折られた」と言う。どっちの言い分が正しいのか、現場にいなかった僕にはわからない。
僕は一水会の人間に、たとえ正当防衛でも暴力はいけないと言っている。デモで機動隊に足を蹴られ、殴り返したとしても、こっちが逮捕されるだけだ。街頭で演説中に左翼や酔っ払いが殴ってきたので殴り返したとする。その「殴り返した」場面だけを見た人は、「やはり右翼は暴力的だ」「怖い」と思うだろう。だから、そんな時は一方的に殴られる、そのために体を鍛えておけ、と言っている。志を持ち活動する人間はそのくらいの精神的強さを持つべきだと思う。
僕も「絶対平和主義者」だ。ただ、それにつけ込まれることも多い。ロフトでは汚い野次や罵声にいつも閉口している。こいつは何を言っても大丈夫だ」と舐められているのだ。板坂剛(舞踏家)と三島由紀夫について話し合った時など、彼は日本刀を持ってきて僕を威嚇し、罵倒し挑発した。さらに刀を抜いて僕の喉元に突きつけ、「刃は潰してあるが突いたら殺せますよ」とニヤリと笑う。無礼な奴だ。カーッとなった。「やってみろよ。そしたらお前も殺してやる。正当防衛で人を殺せるチャンスなんてめったにないし」と思ったが言えなかった。また、元オウム真理教幹部の猪瀬正人と対談した時、この馬鹿は「三島さんは45歳で死んだのにお前は50歳になって何故のうのうと生きてるんだ!」と大声でわめき出した。思わず殴ってやろうかと思った。戦旗派の気持ちが痛いほどわかる。だから僕も決心した。「絶対平和主義者」を捨てる。逆襲を開始する。まずは狂犬・猪瀬に「果たし状を」を叩きつけた。 (以下次号)