「江東社会科学研究所」による論評 |
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Web上にて「江東社会科学研究所」を主催する小池和彦氏が
この事件についての論評を出している。以下にそれを採録する。
「GEGEN DEN STROM (1997)」からの抜粋である。
( http://www.ne.jp/asahi/soc/kkoike/gegen1997.html )
「ブント」の暴力事件(97/8/18)
「ブント」(旧名は戦旗・共産主義者同盟、通称荒派、または日向派)が暴力事件を起こした。7月16日、新宿のトーク居酒屋「ロフトプラスワン」の出演者だった佐藤悟志氏に対し、会場へ行った「ブント」のメンバー10名ほどが佐藤氏に対して殴る蹴るの暴行を加えたのだ。
この事件に先立つ7月8日、荒岱介氏がロフトプラスワンでのトークに出演した際、佐藤氏は「ブント」を批判するビラをまいている。「『左翼自由主義史観』の跳梁を許すな! 第二よど号=しょせんは塩見系ニセブント・サークル集団 左翼KKC=日向一派を迎え撃て!/1997年07月08日 新宿ロフトプラスワン 荒岱介(あらたいすけ)弾劾人民裁判に全ての活動家は結集せよ!」という見出しで始まっていて、肩書きは「政治結社『青狼会』総統、反共突撃隊『ファシスト・インターナショナル』突撃隊長、売春の自由党 事務局長、共産主義者同盟・赤軍派最終議長、ブント清算事業団管財人 佐藤悟志」となっている。その後、荒岱介の「罪状」が3項目にわたって説明されている。最近の「ブント」の急激な路線変更を指摘し、過去の路線の犠牲になった人々に対する責任を追及し、現在の路線の珍妙さを問いかけるものだ。
佐藤 その「アンチで」「リアリティがなく」「通用しない」話を実現するために、一体どれだけの人間が、逮捕され、投獄され、頭を割られ、職を失い、給料やボーナスの大半を上納し、家族を泣かせ、歯を折られたり骨を折られたり、頭がおかしくなって四六時中公安に尾行されていると訴えて精神病院送りになったり、全身に油をかぶって焼身自殺したりしたか。荒岱介が忘れることは許されまい。その犠牲を、あたかも分別ゴミでも出すかのように笑って投げ捨てる「知的共同体」の主催者荒岱介に、昭和天皇の戦争責任を云々する資格はカケラもない。
このあたりが佐藤氏のビラの中心ではないかと思う。ひとことで言えば、かつて戦旗・共産主義者同盟のメンバーだったという佐藤氏が恨みつらみをブチまけたような内容だ。
ビラの最後には、「判決」として、「1 日向一派はブントの偽称をやめ、『わくわくネットワーク・やんぐ埼玉』を名乗れ」「2 荒岱介は今までにダマシとって自分の名義にした全資産を、福祉施設に贈呈しろ」「3 荒岱介は共産主義者=マルクス・レーニン主義者だった過去と戦争責任を償うため、日米帝国主義に謝罪し、反共活動に邁進しろ」と書かれている。
当日の会場でも佐藤氏は発言し、出演者の荒氏を批判したようである。そこで、今度は佐藤氏が出演することになっていた7月16日、「ブント」のメンバーが仕返しに行ったということらしい。
この事件はニフティの「市民運動フォーラム」(fshimin)の第三会議室で山川正泰氏によって報告されている。また、ロフトプラスワンの「常連客有志」が「ロフトプラスワン襲撃を許さない共同声明」を出している。 「ブント」のメンバーである知人に聞いたところ、おおよそ次のような説明だった。(1)佐藤氏のビラはブントを中傷するもので許せない。何の権利があってブント清算事業団管財人」などと名乗っているのか。(2)7月16日の件は計画的な襲撃というものではまったくない。ブントのメンバーは議論をするために行ったのだが、結果としてああいうことになってしまったのだ。佐藤氏はナチス棒を取り出したりしてとても議論する姿勢ではなかった。(3)組織的な行動ではないので、ニフティでの書き込みや共同声明に対してブントとして特に対応することは考えていない。
私は「ブント」のメンバーに佐藤氏のビラを送ってもらって読んだ。これを見れば佐藤がどんなひどい人物かわかる、というつもりで送ってくれたのだろう。しかし、私はそれほどひどいビラとは感じなかった。仰々しいのは冒頭の肩書きと「判決」だけで、内容そのものはほとんど正当なものだ。最近の「ブント」の急激な変貌ぶりには多くの人たちがあきれている。その正当な主張に対し、集団的な暴力で応えたというのは余りにもお粗末というしかない。
続・「ブント」の暴力事件(97/10/30)
「ロフトプラスワン襲撃を許さない共同声明」のWebページが開設された。「ブント」の活動家が佐藤悟志氏に殴りかかった瞬間を撮ったビデオもある。
当初、「ブント」はこの件に関して公的には何も弁明しないという態度を取っていた。それほど重大な問題ではない、ということだった。しかし、最近になって彼らの機関紙『SENKI』に「7・16ロフトプラスワンの血気」という小さな文章が掲載された。
「言論の自由」というのは、「何を言ってもいい」ということではない。言論の自由は、「他者に危害を加えない範囲」で守られるべきものだ。他者の人権や人間としての尊厳を著しく侵害するような言論は自由ではない。〔……〕侮辱されたのはわれわれブントであり、正義を希求し、人間的自由を実現しようというわれわれの思想性だ。黙っているわけにはいかない場合もあるのである。ナチス棒と催涙スプレーで「武装」するファシストに対し、やむにやまれず素手のブントの若者がちょっとだけ血気にはやったのである。
「他者に危害を加えない範囲」で、とはよくもヌケヌケと言ったものだ。侮辱に抗議したいなら、それこそ佐藤氏に「危害を加えない範囲」でやればよいではないか。
ナチス棒と催涙スプレーで「武装」、というのがデタラメであることもビデオを見れば明らかだ。彼らはトークの最中の佐藤氏に突然殴りかかっている。殴りかかった後すぐに逃亡しているところを見ると、「ちょっとだけ血気にはやった」のではなくて事前の計画通りの行動だったのではないかと思えてくる。
この事件は共産主義者同盟・戦旗派(通称西田派)の機関紙『戦旗』や『SPA!』での鈴木邦男の連載記事でも取り上げられた。この問題はもう少し続きそうな気配だ。